ロボット導入に必要な安全規格の全体像

産業用ロボットを日本の事業所に導入する際は、国際標準(ISO規格)と国内法規(労働安全衛生法)の両方への対応が必要です。補助金申請においても、安全対策の計画・実施状況は審査評価の重要な要素となります。

安全規格への適合は「コスト」ではなく「投資」です。適切な安全対策を施したロボットシステムは、補助金採択率の向上・労働災害リスクの軽減・生産効率の最大化を同時に実現します。

規格・法規内容対象ロボット区分
労働安全衛生法産業用ロボットの安全措置・特別教育等全産業用ロボット国内法
ISO 10218-1/2産業用ロボットの安全要求事項(設計・設置)固定式産業ロボット国際規格
ISO/TS 15066協働ロボットシステムの安全要求事項協働ロボット(Cobot)国際規格
ISO 13482個人介護ロボットの安全要求事項介護・サービスロボット国際規格
IEC 62443産業オートメーションのサイバーセキュリティネットワーク接続型全般国際規格
JIS B 8433ISO 10218の日本語版(JIS化)固定式産業ロボット国内規格

ISO 10218:産業用ロボットの基本安全規格を読み解く

ISO 10218は産業用ロボットの設計・設置に関する国際安全規格です。Part 1(ロボット設計者向け)とPart 2(システムインテグレータ・ユーザー向け)で構成されています。

ISO 10218-1(ロボット設計者向け)の主要要求事項

ロボットメーカーが設計・製造段階で満たすべき要求事項です。導入する企業はメーカーからISO 10218-1適合宣言書を取得することで対応できます。

  • 停止機能:カテゴリ0(即時遮断)・カテゴリ1(制御停止)・カテゴリ2(動力維持停止)
  • 速度制御:教示モードでの最大速度制限(250mm/s)
  • 可動制限:ソフトウェア・ハードウェアによる動作範囲制限
  • 緊急停止:IEC 60947-5-5準拠の非常停止装置

ISO 10218-2(システムインテグレータ向け)の主要要求事項

ロボットシステムを設計・構築するSIerと、工場に実際に設置するユーザー企業が満たすべき要求事項です。

  • リスクアセスメント:ISO 10218-2 Annex A(リスクアセスメント方法)に従った実施と記録
  • 安全保護措置:安全柵・安全マット・光電センサー等の設置
  • インターロック:安全柵扉の開放時にロボット停止するインターロック回路
  • 作業者保護:危険区域への立入禁止表示・教育訓練の実施

ISO/TS 15066:協働ロボットの安全規格と安全柵不要条件

ISO/TS 15066は協働ロボットシステム専用の安全規格です。人間とロボットが同じ空間で作業する「協働作業」の安全条件を定めています。

TS(Technical Specification)とは

TSは「技術仕様書」であり、通常のISO規格より改訂が早く技術発展に対応しやすい形式です。ISO/TS 15066は現在ISO 10218-2の改訂版に統合される予定で、2025〜2026年に改訂版が発行される見込みです。

4つの協働運転モードと安全要件

協働モード内容安全柵の要否
安全監視停止(SSS)人間がエリアに入るとロボット停止。人間退出後に再起動エリア検知装置で代替可
手動誘導(HG)作業者がロボットを直接手で動かして教示・作業不要(人間が制御する場合)
速度・分離モニタリング(SSM)センサーで人間との距離を監視。距離に応じて速度を自動制限不要(センサー設置で代替)
動力・力の制限(PFL)接触時の力・動力を人体傷害しきい値以下に制限不要(条件を満たす場合)

PFLモードで接触が許容されるための人体部位別のしきい値(痛覚しきい値・傷害しきい値)がAnnex Aに詳細規定されています。

リスクアセスメントの実施手順:補助金申請書に記載すべき内容

リスクアセスメントは、ロボット導入の安全対策の基盤となるプロセスです。ISO 10218-2 / ISO 12100に準拠した方法で実施し、その結果を補助金申請書の安全計画欄に明記することで採択率が向上します。

リスクアセスメント6ステップ

  1. 使用制限の設定
    • 稼働エリア(ロボットリーチ範囲)の定義
    • 対象作業・ワーク・速度・力の仕様確認
  2. ハザードの同定
    • 機械的ハザード(挟まれ・打撃・切傷・圧挫)
    • 電気的ハザード(感電・短絡)
    • 熱ハザード(溶接・高温部品)
    • 人間工学的ハザード(作業姿勢・騒音)
  3. リスクの推定:発生確率 × 重大性 × 回避可能性の3軸評価
  4. リスクの評価:許容可能かどうかの判断(リスクマトリクス使用)
  5. リスク低減措置:設計対策→工学的保護措置→管理的対策の順で実施
  6. 残留リスクの評価:対策後の残留リスクが許容レベルかを確認

リスクアセスメント報告書の構成

補助金申請書に添付・引用できる形式でリスクアセスメント報告書を作成してください。

  • 1. システム概要(ロボット機種・用途・稼働環境)
  • 2. 使用制限(稼働範囲・速度・可搬重量)
  • 3. ハザード一覧と評価結果(リスクマトリクス)
  • 4. 安全対策措置一覧(設備・管理・教育)
  • 5. 残留リスクと注意事項
  • 6. 実施日・実施者・レビュー者の記名

補助金申請書への安全対策の記載ポイント:採択率を高める書き方

ものづくり補助金・省力化投資補助金の審査では、安全対策の具体性・実現可能性が評価されます。以下のポイントを押さえて申請書を作成してください。

申請書に盛り込むべき安全対策の5項目

  1. 適用規格の明記:「ISO 10218-2・JIS B 8433に準拠したシステム設計を行う」と明記
  2. リスクアセスメント計画:「導入前にISO 12100に基づくリスクアセスメントを実施し、SIerと共同で安全対策を確定する」
  3. 安全保護設備の具体的記載:「エリアスキャナ(SICK S300等)を設置し、人間検知時に安全停止する」等、機器名・メーカー・機能を具体的に記載
  4. 作業者教育計画:「特別教育修了者をロボット担当者として専任配置。全従業員向け安全ルール教育を月1回実施」
  5. 保守・点検計画:「定期点検(月次・年次)の実施計画、保守記録の保管体制を整備」

安全対策費用の補助金適用:対象経費の範囲

ものづくり補助金では、ロボット導入に必要な安全設備の費用も対象経費に含まれます。

  • 補助対象:安全柵・エリアスキャナ・光電センサー・非常停止スイッチ・安全コントローラ・安全警告灯・インターロック装置
  • 補助対象外:既存設備の改修費(ロボット導入に直接関連しない部分)、消耗品

安全設備費も含めて申請しよう

ロボット本体の費用だけでなく、安全柵・センサー・制御システム・作業者教育費(外部委託)も補助対象に含めて申請することで、実質的な自己負担をさらに下げることができます。

産業用ロボットの特別教育:必要な資格と取得方法

労働安全衛生法第36条に基づき、産業用ロボットの教示・検査・修理等の業務には「特別教育」の修了が義務付けられています(ロボット特別教育:学科4時間+実技8時間以上)。

特別教育が必要な作業と不要な作業

作業内容特別教育の要否
ロボットへの教示(ティーチング)作業必要
稼働中ロボットの検査・調整必要
ロボットプログラムの変更・確認必要
ロボット稼働中の周辺作業(安全柵外)不要
ロボット完全停止後の周辺清掃不要(停止確認手順の遵守が必要)

特別教育の実施機関と取得にかかる費用・日数

ロボット特別教育は以下の機関で受講できます。

  • 各都道府県労働局・労働基準監督署:低価格・公的機関
  • ロボットメーカー(FANUC・安川電機・UR等):自社機種に特化した実践的内容
  • 日本ロボット工業会(JARA):公認カリキュラム・修了証発行
  • 各SIer・設備商社:導入機種に対応した実習付き教育

費用目安:1名あたり3〜8万円、期間:2〜3日。複数名の教育費は補助金(ものづくり補助金)の対象経費に含まれる場合があります。

ロボットのサイバーセキュリティ対策:IEC 62443とネットワーク接続リスク

産業用ロボット・協働ロボットの多くがクラウド連携・遠隔監視機能を持つ現在、サイバーセキュリティ対策が必須となっています。補助金申請書でもセキュリティ対策の記載が求められるケースが増えています。

  • ネットワーク分離:ロボット制御ネットワークを生産系・管理系・外部系に分離
  • アクセス制限:ロボット制御端末への認証・ログ記録
  • ソフトウェア更新:ファームウェア・セキュリティパッチの定期適用計画
  • インシデント対応:サイバー攻撃・誤動作時の緊急停止・報告手順の整備

ランサムウェアによるロボット停止リスク

2023〜2024年に国内外の製造業でロボット制御システムへのランサムウェア攻撃による生産停止事例が相次いでいます。補助金で導入するシステムのセキュリティ対策費も含めた計画が重要です。